●HbA1c
【へもぐろびん・えーわんしー】
(検査項目名)
(英:Hemoglobin A1c)



■ヘモグロビンについて
ヘモグロビンは、鉄を含む赤色の色素部分のヘムと、蛋白部分のグロビンで構成されています。

ヘモグロビンは赤血球の中に含まれ、肺で酸素と結合し、それを末梢組織へ運搬するという重要な働きを行っています。血液が赤い色をしているのは、赤血球に含まれているこのヘモグロビンの色を見ているからです。

ヘモグロビンは構成要素のグロビン部分の違いによってHbA、HbA2、HbFの3種類に分けられます。成人のヘモグロビンでは、HbAが97%を占め、HbA2が約1%弱、HbFが残り1%以下です。

なおHbFは胎児ヘモグロビンという意味で、出生直後では全ヘモグロビンの80%以上を占めますが、その後徐々に減少し、5才くらいで成人の値になります。


■グリコヘモグロビンとHbA1について
ヘモグロビンが含まれる赤血球は骨髄で作られ、流血中を約120日間循環します。この循環している120日間の間に、赤血球中のヘモグロビンは血液中の糖類やそれらの代謝産物と結合します。この結合をヘモグロビンのグリケーションといい、グリケーションが起こった状態のヘモグロビンをグリケーティッドヘモグロビンといい、これを略してグリコヘモグロビンと呼びます。

グリコヘモグロビンは元のヘモグロビンとは電気的性質が異なるため、イオン交換カラムクロマトグラフィーという方法を使用すると元のヘモグロビンと分けることが出来ます。

このうちイオン交換クロマトグラフィーでHbAより速く移動するものをHbA1と呼んでいます。

グリコヘモグロビンはHbA1とほぼ同義の意味で使われていますが、厳密にはこれらは異なります。


■HbA1cについて
HbA1はさらに細かく分けることができます。主なものはHbA1a、HbA1b、HbA1cです。このうちHbA1cは、ヘモグロビンA(HbA)にグルコース(血糖)が結合したものです。

HbA1cはまずヘモグロビンAにグルコースが結合し、不安定型HbA1cができます、この状態ではグルコースとの結合は不安定で結合がはずれることもあります。

この状態で日数が経過すると、別の化学反応が起こり、グルコースとの結合が安定した状態になります。これを安定型HbA1cと呼びます。

これは赤血球の寿命まで蓄積し、その蓄積の程度は赤血球が流血中にある期間の平均血糖値を反映します。値は総ヘモグロビン量に対するHbA1cの割合(%)で表します。


■HbA1cの値と合併症について
1987年から1993年にかけて米国で実施された大規模な実験調査研究・DCCT(Diabetes Contorol and Complications Trial)では、IDDM患者について従来法で血糖をコントロールする群と強化インスリン療法でコントロールする群に分け、その後の合併症の発症、進展が検証されています。この調査では、HbA1cは従来法群で平均9%台、強化インスリン療法群は平均7%台にコントロールされました。

10年間そのようにコントロールした場合、その後の合併症の発症や進展に大きな差が認められ、厳格な血糖コントロールを行うことが合併症の発症・進展阻止に重要なことが立証されました。


■HbA1cと血糖値について
HbA1cの値は、赤血球が作られた時から現在までの血糖値に比例します。赤血球の寿命は120日とされていますから、HbA1cは過去4ヶ月の血糖値の動きを表します。
内訳としては、HbA1c値の半分・50%は過去1ヶ月間の間に作られ、約25%が過去2ヶ月、残りの25%が過去3、4ヶ月で作られるとされています。つまり近い過去の血糖値ほどHbA1Cの値に大きく影響する訳で、通常は過去1、2ヶ月の平均血糖値の動きを見るために使用されています。

DCCTの調査から、HbA1cの1%の違いは、平均血糖値の30mg/dlの差に相当するとされ、HbA1cと平均血糖値の関係は以下の通りとされています。
HbA1c(%) 平均血糖値(mg/dl)
 60
 90
 120
 150
8  180


■正常参考値と老人保健法による健診基準
耐糖能正常者の基準範囲は4.3から5.8%である(糖尿病学会)。

老人保健法による健診では、以下の基準が用いられています。
5.6未満を正常
5.6以上5.9以下を要指導
6.0以上を要医療


■糖尿病患者におけるコントロール目標
血糖コントロール状態の指標と評価(日本糖尿病学会)
コントロールの評価 不可
空腹時血糖値 (mg/dl)  100未満   100〜119   120〜139   140以上 
食後2時間の血糖値(mg/dl)  120未満   120〜169   170〜199  200以上 
HbA1c(%)  5.8未満   5.8〜6.5  6.6〜7.9  8.0以上 


■検査値を見る上での注意
【安定型と不安定型のHbA1c】

糖尿病学会の標準測定法では、安定型HbA1cを測定するよう定められていますが、現実的には不安定型も含めて測定する機器もかなりあります。不安定型は食後高くなります(随時血糖値を反映するため)。大手の検査センターなどでは大丈夫ですが、中小の医療機関では一度確認する必要があるでしょう。ただし、この問題については、ここ数年でかなり解消してきています。

【測定法間、分析機器のメーカーによる測定値の違い】
HbA1cの標準法として高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)がありますが、その他にも免疫学的な測定法やアフィニティー法があります。これらの測定法間や分析する機器のメーカーによる測定値の差が認められます。

HPLC法、免疫学的測定法については、日本糖尿病学会のHbA1c標準品に合わせて測定値を正しく補正してあれば、異なる医療機関での測定値でも互換性はあります。ただアフィニティー法については、現状では測定値にばらつきが多く、注意が必要です。アフィニティー法は操作が簡単であることから、開業医などでよく使用されています。

【HbA1cの値に影響する因子】
HbA1cの値は、過去の血糖値に影響されることはもちろんですが、ヘモグロビンが含まれる赤血球側の影響も当然受けます。

溶血性貧血や大量出血等の赤血球寿命の短縮する場合は、新しい赤血球が多く作られるため、HbA1cの値は平均血糖値に比べ低くなります。この他に、鉄欠乏性貧血の治療時、異常ヘモグロビン、妊娠、透析、肝硬変などの時にもHbA1cは平均血糖値を反映しなくなります。このような場合には、グリコアルブミンを測定し、血糖コントロールを推定します。

この項執筆:谷内さん