●ハネムーン・ステージ(寛開期)
【はねむーん・すてーじ(かんかいき)】
(症状名)
(英:Honeymoon Stage)



1型DM発症の初期段階で、インスリン注射による適切かつ十分な血糖コントロールを行うと、インスリンの自己分泌能がある程度まで回復し、一時的にインスリン注射が不要になるか、インスリン注射の需要量が大きく減少する時期が来ることがある。これを寛解期またはハネムーン期という。しかし、やがて自己分泌されるインスリンは不足するようになり、再びインスリン注射が必要になる。

一般的な(=非劇症型の)1型DMの場合、何らかのきっかけにより免疫系に異常が発生し、膵β細胞が自己免疫反応によって徐々に破壊されていくが、残存している膵β細胞がそれらの減少分をカバーするので、破壊がかなり侵行するまで明確な症状としては何も現れないケースが多いことが知られている(個人差はあるが、これには数ヶ月から数年の期間を要する)。

そうした破壊が90%前後まで侵行した段階で、残存β細胞でのカバーが限界に達し、ようやく口渇・瀕尿・疲労・脱水など高血糖による典型症状が現われ、「1型DM発症」として認識される。ただし、こうした発症初期段階のプロセスの途中で、検査や自覚症状などで異常を検知し、インスリンを適切に導入すれば、まだ残存している膵β細胞の機能が一時的に回復し(または破壊の侵行が抑制され)、「見掛け上」DMの症状が軽快あるいは消失することがある。これがいわゆる「ハネムーン・ステージ(寛開期)」であり、この際にはインスリンの需要量が大きく減少する。

よって、ハネムーンは「膵β細胞が残存していること」がその前提条件となる。

これに対し、劇症1型DMでは、通常の自己免疫反応とは異なり、数日から一週間のごく短期間のうちに膵β細胞が一気かつ全体的に破壊される。つまり劇症1型DMでは、発症初期の段階でハネムーンの前提となる膵β細胞が既に殆ど(あるいは全く)残っていないので、残念ながらその到来は期待できないのである。

このハネムーンを迎えた場合の注射をどうすればいいかについては、そこでどのような自己インスリン分泌パターンになっているかを正確に把握することから先ず優先すべきであろう。

もし、食直後のピーク分泌のインスリンが足りないのであれば、速効型もしくは超速効型インスリン主体の対応になり、基礎分泌のインスリンが足りないのであれば、N(中間型)もしくは超持続型インスリン主体の対応となる。また、いずれも全般的に低下しているのであれば、少量のRとN(もしくは超速効型)によって、自己分泌のパターンを全体に「嵩上げ」してやることが必要になってくるだろう。

ここで何よりも大切なことは、「健常状態の自己インスリンの分泌パターンを模倣する」ことであって、「『インスリン注射を打たないようにする』ことではない」ことに注意すべきである。

何故なら、ハネムーンが長期に渡る場合や、膵β細胞破壊の侵行が極めてゆっくりな1型DM(いわゆるSPIDDM)の場合、DMの症状が収まったからといって、そこで安心して治療を中断してしまうと、高血糖の自覚症状がないまま血糖コントロールが悪化し、最悪の場合は合併症が侵行するケースがあるからである。

もし仮に1型DM発症後、幸運にもハネムーンを迎えることがあっても、それは「1型DMが治癒した」のではなく、あくまで「一時的なもの」なので、その持続は安易に期待すべきではない。必要な場合に必要なだけインスリン注射をすることを躊躇すべきではないだろう。

ハネムーンを迎えたら、不足分に相当するインスリンを注射で補充してやることによって、残存しているβ細胞の機能を保護し、できるだけ長期にわたってハネムーンが持続するよう配慮しつつ、「いつハネムーンが終息してもすぐに対応できるよう」定期的な検査を怠らないようにすることが必要である。

参考: http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamph/pamph_12/panfu12_08.html
『糖尿病診療マスター』Vol. 1 No. 5 p.526