9月23日(月) 11:20〜12:30

「エム・ナマエさんを交えての討論会」

イラストレータ エム・ナマエさん

エムさんは「さかえ」の表紙のイラストを手掛けておられるイラストレータです。ご存じでない方もいるかも知れませんが、彼は糖尿病が原因で失明しています。それでは、彼は失明しているのに一体どうやってイラストを描いているのでしょうか?その技術もさることながら、失明してもなおイラストを描き続ける彼の積極的かつ楽天的そして果敢なものの考え方を、皆さんも是非自分のそれと比べてみて下さい。


私は1983年に糖尿病を発症し、同時に失明しました。そして1986に完全失明しています。今から10年前に「君はあと1年しか保たないよ」と宣告されたんですが、10年経った今でもまだ生きていますね(笑)。ちなみに現在のHbA1cは6%台です。

私が病気になってしまったとき、私は「病気の自分」を生きていくことを自ら選択しました。あるいはそうした、常に血糖コントロールが必要な状態を得た、と考えることにしたのです。発病当時は現役バリバリのイラストレーターでしたが、失明したことによって、当然ですが職を失うことになりました。

さて、失明した自分がどう生きていくか、自分の人生をどう切り開いていくかですが、僕は何でも独りで決めて来ました。失明後のリハビリも特に訓練学校に行ったりはしていません。生活に必要な訓練は全て自分でやってきたのです。私は自分が自分の教師であって、全ての問題に関して全て自分の中に答えがあると考えています。

失明してからしばらくは執筆活動をしていまして、1989年に長編童話で新人賞を獲得しました。また、丁度その頃に冗談で描いた絵が賞を取ったんです。あと楽器を弾いて歌も歌いますので、職業は作家兼イラストレータ兼ミュージシャンとなります。いわゆる「唄って踊れるイラストレータ」ですか(笑)。

「生きてる現在の集大成」が自分の人生であって、それ以外のものでは有り得ない。その中でどんなハンデがあろうとなかろうと「やるヤツはやる」し、逆に「ダメなヤツはダメ」で、「馬鹿なヤツはやっぱりバカ」なんです。そして私の場合は、病気によって自分をシフトアップさせることができました。私にとっての問題は病気そのものではなく、自分をどうプロデュースするか、目の見えない自分が目の見える他人をどう惹き付けるか。そのことに尽きます。

「目が見えないのにどうやって絵を描いているんですか」とよく訊かれますが、もし描こうとする意志があれば手段は自ずと決まってきます。何も迷うことなんかない(笑)。ただ、失明する前は「自分で自分の絵を愛でたい」(笑)とのナルシスティックなモチベーションに依存した制作だったので、失明してしばらくは全くやる気がなくなってしまったんです。しかし、私の最愛の人が、失明した自分が描いた絵を観てめちゃくちゃに喜んでくれ、その喜びがモチベーションとなって再び絵を描き始めました。これが嬉しくない訳がないんですよね(笑)。

仕事として再び絵を描くようになってからのことですが、高い金を取るためには高い金を取れる仕事をしなくてはなりません。これは非常に重要なことであって、常に念頭において仕事をしています。実際に絵を描くときの手法ですが、ボールペンとイラストボードで描きます。ボールペンでイラストボードを引っ掻くようにして線を引き、そこでついた凹みを指でなぞりながら絵を描いています。色はパステルですが、色を付けるときは自分の置きたい色を妻に取ってもらってやっています。そして自分で描いた絵は、構図はもちろん、配色も全て覚えています。

皆さんには判らないでしょうが、私の視界の中にはスピルバーグもかくやの大スペクタクルが常に展開しているんですよ。皆さんも機会があれば視覚から開放されることの素晴らしさを是非楽しんで下さい(笑)。逆説的ですが、「見えない自由」を手に入れることによってイマジネーションはますますかき立てられるんですよ。

目が見えているといつも「どうみえるか」に囚われてしまう訳ですが、目が見えないと「どうみるか」に集中することができます。「どうみえるか」は完全に捨てている訳です。ただ、自分の視覚を通して入ってくる直接的なフィードバックはありませんが、他人からの評価を通した間接的なフィードバックは存在します。私の場合、自分の仕事の評価は「他人にお任せ」してあるのです。

司会:

どうもありがとうございました。それではエムさんに何かご質問のある方はおられますか?

Q:内潟先生

エムさんが自分を高めていくにあたって、その源泉となるものは何なのでしょうか?

A:エムさん

周囲の方から「年々巧くなっている」と評価されていますし、また自分にその自覚もあります。実際に、以前目が見えているときに描いた絵よりも、現在の絵の方が評価されているんですよ。しかも、全盲であることを知らずに評価されていることが多いですね。目が見えている頃は、自己満足的要素が強かったのですが、目が見えなくなってからはそうしたことはできなくなりましたし、しなくなりました。自分の内側の宇宙を見ることによって、自分を高めるきっかけを得たと考えて頂ければ結構かと思います。
A:「さかえ」編集担当の田辺さんより補足 実は、エムさんの絵がさかえの表紙に採用されたときスムースに決まった訳ではありませんで、これには内潟先生のバックアップが大きく働いています。これは内潟先生がご自分の責任で決められたことです。この場を借りて補足しておきます。ちなみに、「さかえ」は来年B5版になりますが、来年からもエムさんの続投が決定しております(拍手)。

Q:

エムさんの作品(カレンダーなど)はどこに行けば手に入るのでしょうか?

A:エムさん

ありがとうございます(笑)。今皆さんに見て頂いているカレンダーは、丸善に行けば扱っているはずです。あと、インターネットでも私の作品を紹介していますので、どうぞそちらの方もご覧になって下さい。



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