22日(日)19:00〜
討論会「ヤング1000人の声を聞こう」を読んで
「ヤング1000人の声を聞こう −小児糖尿病の問題点と今後を考える−」について 現在、小児期発症インスリン依存型(性)糖尿病(IDDM)の患者さんの医療費は、18歳の誕生日まで、小児慢性特定疾患として公費で負担されています。 しかし、18歳の誕生日をすぎると、一部の地域を除いて、家族あるいは本人負担となるため、医療給付年齢の引き上げを求める声が上がりました。 本調査は、「18歳を超えても医療給付を受ける必要性とその根拠」を明らかにするために、以下のような経過を経て実施されました。 (1)患者団体→厚生省へ要望 (2)厚生省→日本糖尿病学会、日本小児科学会へ諮問 (3)日本小児科学会→小児内分泌学会へ委任 (4)(社)日本糖尿病協会より調査研究費支給 (5)平成7年2月より小児内分泌学会の小児糖尿病委員がアンケートを実施し、1855通の調査用紙を発送した (6)平成7年12月末までに全国の18歳以上に達した小児期発症インスリン依存型糖尿病者1013名(男性354、女性659名)から回答 これほど大規模で詳細な実態調査は、わが国で初めてのことです。また、これほど多くのIDDMヤングの声が寄せられたことも、画期的なことです。寄せられたIDDMヤングの声はもちろん、日本人IDDM全員の意見が反映されているわけではありません。すでに自分を見つめることができる考え方をもっていて、かねてより社会に対して意見を述ぺたいと思っているヤングの声でありましよう。 本座談会では、このようなアンケートの背景をふまえて、IDDMのヤングたちが、いまなにを考え、なにを悩み、またなにを求めているのか、生の声を紹介し、問題点と今後を、語っていただきました。 |
アンケート結果
回収率
54.6%
男性
女性
回答者の平均年齢
24歳
24.9歳
平均罹病期間
14.1年
14.6年
(以上、医歯薬出版の糖尿病専門誌「さかえ」July 1996 Vol.36 No.7 P4 より抜粋)
この企画は、糖尿病専門誌「さかえ」で報告されたヤングIDDMに対する調査結果を元に、「IDDMの自立」についてトップセミナーの参加者で討論することをその目的としています。
討論に先立って、司会の岡田先生から先ずこのアンケートについての意見が求められました。主なものとしては...
◆
同じIDDMの友達が欲しい(=IDDMの友達がいない) ◆
精神的な自立をしよう ◆
医療費の負担を大変重く感じる人がいるが、それは本人の保険ではないことが原因なのではないか ◆
「自立」を謳っている一方で、自分の責任を果たそうとしていないなど、矛盾している部分がある ◆
まだまだ不当な待遇を受けることが多いが、そのようなことをなくすため全国的な活動の展開をしていきたいと考えている ◆
全国的な活動はないのか? ◆
就職が楽にできるようにするため、医師の説明をつけた意見書などを企業に送ることも考えている などが挙げられました。
次に「選択項目の中に不満はなかったか」との問い掛けに対しては...
◆ これは「医師が医師の視点から作ったアンケート用紙だな」と思った。質問紙はヤング自身が作ればよいと思う ◆ 自分達が何を考えているかを自分達自身で調べ、発信していくことが必要そうした活動が全国的な活動に繋がって行くのではないか ◆ アンケートに参加されていない方の意見が大事なのではないか?それらの意見を聞いてみたいと思う ◆ 就職するときには相手企業に自分の病気のことを知らせた方がよいとは思うが、逆に自分を売り込もうとしているのにわざわざ自分に不利なことを相手に知らせる必要はないとの考え方もある ◆ このアンケートの結果は本当にIDDMの実態を正確に表しているのか? ◆ アンケートで寄せられたアドバイスを見て、自分に適うものを選んで生き方に活用して欲しい などの意見が出されました。
■ 病名について
続いて「病名について」です。「インシュリン依存型糖尿病」の名称については以前からその変更を求める声が上がっているようですが、これについての参加者の意見は...
◆
臓器関係の名称がついている病気が多いが、何故糖尿病だけその「結果」の名前が付くのか? ◆
もっと「カッコイイ」名前にならないのか ◆
世界中の糖尿病の名称をみてみると、半分は尿の意味が入っているが半分は入っていない。検査のし易さや検出方法によって名称が決まるようである(仲村先生より) ここで「インシュリン依存型糖尿病」名称の変更についての賛否が求められました。その結果、
賛成
8人
反対
38人
保留
24人
となりました。
■ 医療費の負担感について
続いて、「医療費の負担感」の問題が採り挙げられました。学生や就業前の人は医療費のためにアルバイトなどをしている人もいるが、その負担感などの内容について参加者の意見が求められました。
◆
学生としては負担に感じるが、負担自体は仕方ない。親には申し訳ないと思っている ◆
学生としては負担に感じるので、できれば一生涯公費負担して欲しい ここで取り敢えず全員に挙手を求めたところ、20名程度の人が賛成でした。しかし、この「一生涯公費負担」の意見はかなり極端なものでしたので、直後から反対意見が続出します。
◆ それはつまりインシュリン依存型糖尿病であることが「障碍者」であることを認めることになるが、本当にそれでもいいいのか? ◆ 「普通の人と変わらない」ことを認めてもらおうとしてみんな苦労しているのではないのか? ◆ もし一生涯の全額医療費負担を求めるのならば就職の不利を認めるべきである そこで再び全員に挙手を求めたところ、一転して今度は賛成は「0」になってしまいました。そのとき仲村先生から
◆
学生ならば各学校で学生保険がないかどうか調べて欲しい ◆
特定疾患の公費負担の限度年齢は、国ではなく各地方自治体に任されているので、現在18歳と20歳に分かれている限度年齢を一律に揃えるよう働きかけてはどうか との意見が出されます。
ここで、司会の岡田先生より「一生涯の負担を希望していた20名の方に意見を述べて欲しい」と発言が求められたのですが、誰も答えようとしません。会場には緊迫した重苦しい空気が漂います。
突然釜掘先生より「司会の進め方に問題があるのではないか、『一生涯の保障を求めることが障害者を意味する』とツメたら反対意見が出る訳がない!」との非常に厳しい意見が出ます。
岡田先生は「司会進行に不手際があるのは認めるが、敢えて公の場で発言してもらっている」と答えました。討論はさらにそのまま継続します。
◆
自立だ何だとかっこいいことを書いておきながら、一生涯の負担を求めるなんてちゃんちゃらおかしい ◆
糖尿病は「障碍者」なんかではない ◆
生命保険にも入り難くなるので、負担すべき点は負担すべきである ◆
こんなやり方では意見も出し難いし、皆も疲れてきているのでもうやめましょう ◆
全員前を向いたまま討論しているが、これではお互いの顔が見えない。全員向き合うように椅子を並べ替えてはどうだろうか ここで、取り敢えず椅子を並べ替えてから休憩に入り、10分後に再開することになりました。
*
それでは再開です。「医療費の構造について説明してからの方がよいのでは?」との声に従い、まず医師の方から健康保険制度について説明してもらうことになります。その前に意見がひとつ。
◆
公費の生涯負担希望は「できるものなら」とのごく軽い考えによるものであって、「それが障碍者であることを認めることになる」とまでは考えていなかったのではないか? ■ 健康保険制度について
基本的に...
○
保険本人は1割負担 ○
給料の中から納めている保険料から、残りの9割が負担されている ○
扶養家族は7割負担 補足として...
○
国民健康保険も、自分達が自治体に納めた金を受診費用に応じて分配しているだけ。元々は自分のお金である。 ○
70才以上は老人健康保険制度に従って国が払う(=公費負担)。ただし、1カ月に1020円だけは自己負担しなければならない。 ○
IDDMの場合、地方自治体の市町村レベルで対応されることになっている。 ○
特定疾患は自己負担分の3割分だけを市町村が払っている。 ○
支給上限年齢は各市町村レベルによってまちまちで、これはそれらの収支状態によって異なっているのが現状。 ○
名目上、「小児」糖尿病となっているので、NとIの区別は行わない。ただし、本来これはIDDMのための制度としてしか考えられていなかったものを、NIDDMでも申請する医師がいたために、現在ではなし崩し的にNもIも支給されるようになってしまっている。 ここで岡田先生から、「先程司会の議事の進め方に問題があるとの指摘がありましたが、司会をどうするべきか、意見をお持ちの方は発言して下さい」との提案がありました。これついては次のような経過がありました。
◆
こうした形式で議論をするのは本当に適切でしょうか? ◆
ヤングが自分達で司会をやればいいのではないか ◆
何を話せばよいかを把握しているのは主催者側なのでそのままでよい ◆
「今さら変える訳にはいかないでしょう」(笑) よって、そのまま進めることになります。
再び保険制度について議論を進めます。
◆
現状でよい ◆
親の負担が心配と考えるなら、自分で払うべき ◆
現状でよいが、学生については年齢の上限を変えることについての是非を問う価値はある ◆
自分の健康を守るためには水さえ買う時代なんだから、医療費も自己負担分をきっちり負担すべき ◆
学生は学生保険制度を利用するべきである ◆
奨学金を医療費に充てる方法もある ここで、さきほど「一生涯の負担」に賛成した20人の内の1人の方から発言がありました。
◆
会社が半額払って自分で半額払っていたので、今の月額1万5000円の支出を負担に感じる これに対して
◆
「1万5000円で私を奥さんにしておくなら安いものだ」と思わせればいい(笑) ◆
月に4万から5万取られると非常に厳しく、負担に感じていた ◆
親に負担してもらうことが本当に申し訳ないと思うなら働けばよい ◆
就職のとき職場には黙っていた、保険も全額自分で負担していたが、スキーで骨折したのを機会に「手術の前に発病した」ことにしてもらった(笑)。 ◆
税金を使っていると日本の医療制度を圧迫するのは事実なので、日本が好きなら自己負担しましょう!(笑・拍手) ◆
ハンディキャップがあるのなら、それを補ってあまりある何かを具えていなければならない ◆
18歳がいいか20歳がいいかを子供自身に諮ってはどうか? ◆
18才で公費負担が終了する自治体に住む人は、18才になるまでにたっぷりインシュリンを貯めておきましょう(笑) ...以上の経緯を経て、議論した内容を岡田先生にまとめてもらいました。
■
公費負担支給限度年齢の地域間格差をなくす ■
その場合、20歳までの負担を原則とすべきである
このとき、岡田先生から「今回のトップセミナーでは、もし何らかの要望があればそこで意見を集約し、日糖協の小児糖尿病対策委員会に持っていくことを予定している」ことが初めて明らかにされます。ところが、ディスカッションに参加していた人はほぼ全員このことを知らなかったので、方々から「だったら最初からそう言っておいてくれればそのつもりで議論したのに...」とぼやく声が。「それは実効委員長の南が悪い」と進行の不手際を戒める仲村先生の厳しい言葉もありました。
しかし、もう済んでしまったことは仕方ありません。「これを今回のトップセミナーのディスカッションで集約された意見として日糖協に持って行ってよいか?」と諮る司会の岡田先生に対して、仲村先生から「この要望が通れば状況が改善されるのだから何も問題はない」の一言。これでこの問題に関してはひとまずの決着をみました。
ここで、「みんな知識がないので、何を言えばいいのか判らないのではないか。もう少し医療費の仕組みに関して勉強するべきではないか」との意見が出されました。しかし、かなり長時間に渡ってディスカッションが続いているので、ここで再び休憩に入ります。
*
再開後は、「全国のヤングの会の組織づくり」についてです。
■ 全国のヤングの会の組織づくり について
40年の始め頃に学生管理センターが糖尿病があることで就職差別をしないよう企業(経団連?)に申し入れ、「差別しない」との公式回答を得ているのですが、その後状況はあまり改善されていません。ちなみに、障害者雇用推進法によると全雇用者のうち5%は障害者を雇わなくてはいけないことになっていますが、こちらも徹底されていません。これらの状況は労働省が監督しないといけないことになっていますが、実際には何もやっていないのが現状です。この状況に対する具体的対応策としては、
○
若い人が積極的に日本糖尿病協会に入ってさかえを読む ○
さかえの編集委員にヤングの代表を送り込む などが考えられます。ちなみに、インシュリンの自己注射が認められてから15年が経ちますが、これは熊本出身の厚生大臣の鶴の一声で決まったことなのです。仲村先生の場合、それまでは「これで医療保険請求が通らなければあんたは人殺しだ」と事務を脅し上げて、無理矢理保険請求していたのだそうです。日糖協の会員数が30万人になれば、かなり社会的影響力を持つようになるので、皆さんも日糖協に入って積極的な活動をすることが望まれます。
*
これで、ディスカッションの方は取り敢えず終了となりました。パンフレットを見てある程度予想はしていたものの、それを上回るタフな内容でした。
これまではこうした議論をする機会がなかったので、同じIDDMの人達がそれぞれどのような考えを持っているのかを知る上でも大変価値のある場であったと思います。これを今後も継続していきたいものです。