9月22日(日) 10:45〜

講演「IDDM患者として・医師として」

東大病院小児科 三木裕子先生


三木先生ご本人曰く「子育てもしている小児科医」で、この題を「劣等生患者が医者になって思うこと」に変更して下さい(笑)とのことでした。IDDM発症は12才のとき。この講演では、「患者側からみた医師の批判」と「医者からみた理想の患者像」についてお話して下さいました。



 私は小学6年で発症し、やはりその当時は自分の将来が全く見えませんした。しかし「医者になろう」と決心し、その夢に支えられてここまで来ることができたように思います。医者になってから最初に女子医大に入局しましたが、1年でやめて東大病院の小児科へ移り、現在に至ります。

 29歳で結婚しましたが、それまで「注射さえすれば普通の人と同じ生活ができる」とばかり思い込んでいた私の身体は既にボロボロの状態でした。「私だけは合併症なんかとは無縁だ」と勝手に思っていたのですが、目は増殖性網膜症、腎臓は透析の一歩手前の状態だったのです。医学部にいたときに先生から「君はIDDMの子供たちの星になれ」と言われ、強く感銘を受けたのですが、実際にはコントロールは「星」どころではなかったので、ついついそうした場から足が遠ざかってしまいました。「私は理想的な治療を実践するIDDMにならなくてはいけない」との「気負い」が、逆にコントロールを乱す原因となったのです。

 しかし、「子供が欲しい」と思うようになってからは自然体で病気と向き合うことができるようになり、ごく普通にしていればA1cが7%台が維持できるようになりました。ようやく自分の病気を受け容れられるようになったのです。

 では、患者側から見た医師の批判ですが、まず小児科医としてIDDMにきちんと対処できる医者はほんのひと握りしかいないことが残念です。小児科医はもっとレベルを上げるべきなのです。皆さんも自分の人生や生活に関わっていることなので遠慮している場合ではありません。短絡的に自分の意見を押し通しても問題がありますが、医師の指導に従ったためにコントロールが悪くなったり、あるいはこちらの質問や疑問に耳を貸そうとしない医師がいれば、躊躇せずに自分で医師を替えて下さい。

 一方、医者としてどんな患者になって欲しいかですが、先ず病気から逃げないこと。自分の身体の状態が悪くなってきたときに、それが恐くなって医者や自分自身から逃げる患者がいますが、それだけはやってはいけません。やらないで下さい。そして常に定期受診する習慣をつけておけば、合併症の早期発見に繋がりますし、初期の合併症ならば改善も可能です。

 次に自分勝手に判断して行動しないこと。血糖値も測らずに「まあ大丈夫やろう」などと思わないで下さい。最低限血糖を測ったり、コントロールについて判らないことがあれば必ず医者に訊くことです。小中学生はよく嘘をつきます(笑)が、皆さんはそんなことはありませんか?嘘の情報では医者も正確な判断ができないので、これだけはやってはいけません。

 そして、もっとIDDMの自分に自信を持っていいし、持って欲しいのです。高校生などで、自分でインシュリンの注射していることが非常に悪いこと、負い目に感じている人がいるようですが、そんな必要は全くありません。病気のことを「言わない」のはその人の自由ですが、「隠す」のはよくありません。自分に自信が持てるようになれば、病気以外のことにもどんどん挑戦できるようになります。また、IDDMのことが判るようになれば、他の病気の人にも配慮ができるはずです。自分以外の人間に対しても、温かく優しくなれないとダメですね。

 とにかく、病気を持っている「今の自分」を好きになって下さい。泣いて過ごしても人生です。しかし、笑って過ごしても人生です。ときには泣くことがあったり悩むこことがあっても全然構いませんが、それをプラスに活かす努力をしなければ意味がありません。「病気になったからこんなことができる」との積極的な発想、プラスの考え方を大事にして欲しいですね。人は誰しもハンディを持っています。自分はIDDMというハンデを背負ってどうやって生きていくか、常にそのことを考えながら毎日を大切に送って下さい。


*三木先生から参加者に質問*

Q:

参加者の中で小児科で受信している人は何人おられますか?

A:

→9人

Q:

それでは最初から内科で受信されている方は?

A:

→20人


*参加者から三木先生に質問*

Q:

子供がIDDMで、現在医者と折り合いがうまくいっていないようなのですが、子供でも内科に懸かってもいいのでしょうか?

A:

子供の場合はいろいろと不安定になり易いので、何でも相談できるような医者がすぐ近くにいる方がいいですね。ただし、普段は近所の医者に面倒を看てもらって、学休期間などに専門科医に看てもらうなどの対処も有効です。ちなみに、子供は「叱る医者」を非常に嫌がります。実際、イヤな医者に会うときには血糖が上がりますから(爆笑)。

Q:

中学1年で発症、現在高校1年ですが、病気のことを受け容れられていない様子なんです。学校側からは「養護室で注射をしてもよい」と快諾を得ましたが、注射はトイレでしているようなんです。あるとき私(母親)が娘の友人に娘のIDDMのことを打ち明けたところ、「何故私のことを判ってくれないの!?」と泣き出すなど、非常にナーバスな状態です。こんな娘に対して、親としてどうやって対処したらよいのでしょうか?

A:

思春期に親の言うことに反発するのは当たり前です。その意味ではむしろ健全ですよ。ところでサマーキャンプに参加されたことはありますか?

Q:

締め切りに間に合わなかったので参加していません。

A:

周りに自分と同じ境遇の人がいると精神的に緊張が解けて解放されるので、是非参加させてあげて下さい。子供は親の言葉では殆ど変わりません。辛いかも知れませんが、命に別状がない限り、どんなことをしても放っておくのが一番です。ただし私を見本にされるとちょっと困るんですが(笑)。



ひとこと

今回のトップセミナーではどの医師の方も口を揃えて、「患者としてできるだけのことをした上で、それでも医者と意見や方針が合わなければ、遠慮なく医者を替えて欲しい」と仰しゃっていたのが印象的でした。私もかつて医者を替えた経験があるのですが、DMの皆さんは現在の主治医に満足されていますか?そして医師の皆さんはDMの処方について最新の情報を常に把握しておられますか?





 トップページ  / トップセミナー目次 / IDDM患者として・医師として