9月22日(日) 9:30〜
講演「シックデイ・ルール」
千鳥橋病院 岡田朗 先生

インシュリンはいつも決まった量を打つのが基本ですが、病気のときやお腹をこわしているときにも同じようにする訳にはいきません。こんなときどうすればよいのか。その対処の方法について、千鳥橋病院の岡田先生からお話を伺いました。




シックディ・ルールに関する本は2種類出ているので、そちらも参考にして下さい。風邪やお腹をこわしたときなど、血糖が高くなったときにもある程度自分で対応できるようにしておいた方が生活の幅が広がります。ただし、こうした非常時に自分で対応するためには、日頃から十分コントロールできていることが前提になります。ポイントは次の通りです。


  1. IDDMの人では、低血糖時の対応と同様、感冒などの際の対応法について知っておく必要があります。この方法を「シックデイ・ルール」(sick day rule)といいます。

  2. 対応法の中心は、風邪などの時に必要に応じた充分なインスリンと水分・電解質(塩分)を補給して、ケトアシドーシスを予防することにあります。

  3. しょっちゅうあることではないため、病気になった時には対応法をすっかり忘れていることも多いようです。対策法のメモをきちんと保存しておくことが大切です。





具体的なシックディ・ルールは以下の通りです。

1.まず、かぜなどの病気の治療をします。

    主治医の病気の時の指示に従います。抗生物質や解熱剤の内服などについてあらかじめ主治医に確認し、必要なら薬の処方などもしてもらっておきましょう。


2.脱水症の防止

    病気の時にはインスリンが効きにくくなりやすい(これをインスリン抵抗性といいます)ため、いつもとなんら変わらない食事やインスリンをしていても血糖値が上昇しやすいことをまず知っておきましょう。血糖値がかなり上昇すると、腎臓ですべてのブドウ糖の再吸収ができなくなり、余分のブドウ糖は尿の中にあふれて出ていくことになります。尿中のブドウ糖は更に尿中に水分と塩分を引き出すことになり、結局たくさんの尿が排出されていくことになります。このようにして病気の時には徐々に脱水症に傾いていきます。また、発熱している場合には、さらに汗などによっても水分は失われますし、体温の上昇はインスリンをさらに効きにくくします。一概に言えない面もありますが、体温の1℃の上昇はインスリンの必要量を50%も増やすともいわれているほどです。ですから病気の時には、まず何よりも脱水症の防止に努めましょう。



  脱水症は以下の方法で防止することができます。

  1. 30分〜1時間毎に水分の補給をします。補給する水分の量は1時間あたり100ml程度以上。水分が欲しければゆっくり少しずつ十分に補給するようにして下さい。水分はすこし塩分の入っているものの方がよいとされています。

  2. 通常の食事ができる状態なら、摂取する水分は水やウーロン茶、味噌汁、コンソメスープなど糖分の入っていないものを用います。

  3. 通常の食事ができない状態なら、摂取する水分はポカリスウェットやネクターなど糖分の入っているものを用います。

  4. 体重を一日のうちに数回測定して下さい(体重の減少は脱水症の判断に有用ですから)。



3.ケトアシドーシスの防止

  1. 血糖値が80mg/dl以下であった場合を除き通常通りのインスリン注射を行います。主治医から指示されている場合を除き、食事が食べられなくてもインスリン注射を中止してはいけません。

  2. 4時間毎に自己血糖測定を行います。

  3. 4時間毎に尿ケトン体測定を行います。

  4. 自己血糖測定値によって、速効型インスリンの追加投与を行います。追加するインスリンの量は1日の総量の10〜20%です。

  5. 安静にして、すべての運動は避けます。


 ■追加インスリンの量の算出法

 例1:朝ペンフィルR10単位、昼ペンフィルR10単位、
    夕ペンフィルR10単位、眠前ペンフィルN10単位
    を使用中の場合

  1日の総量=10+10+10+10=40単位
  1日の総量の10%=40単位×10%=4単位
  1日の総量の20%=40単位×20%=8単位


 ■使用インスリンの種類

    速効型インスリン(透明なインスリン)のみです。ペンフィルR、ヒューマカートR、ノボリンR、ヒューマリンRのことです。速効型インスリンをいつもは使用していない人は主治医に追加用として処方してもらっておきましょう。

    ※ペンフィルNやモノタード、ペンフィル30Rなどの混合製剤は全てこの場合の追加インスリンとしては使用できません。



 ■追加インスリン量の決め方

    主治医と相談の上、あらかじめ決めておくのが最もよいです。以下のように使用することも多いので一例として示しておきます。
           
     血糖値   0〜240mg/dl     インスリン
     追加なし 
     240〜400mg/dl   尿ケトン体(−)  総量の10%
     240〜400mg/dl   尿ケトン体(+)  総量の20%
     400mg/dl〜  尿ケトン体の有無に
     関係なく 
     総量の20%



4.以下の症状がみられる場合は通常点滴など病院での治療が必要となるので、
  すぐに診察を受ける必要の検討をします。直ちに主治医か担当の看護婦に
  連絡するかすぐに受診して下さい。

  1. 脱水症の症状:口腔の乾燥、口唇のひび割れ、眼の落ちくぼみ、体重の減少など
  2. 充分量の水分摂取不能、又は嘔吐の1時間以上の持続
  3. ケトアシドーシスの症状:嘔気・嘔吐、腹痛、早くて深い呼吸、意識もうろう状態
  4. 高血糖(250mg/dl以上)と尿ケトン体陽性の12-24時間の持続
  5. どうしたらいいかわからない場合


■電話連絡先 病院名・主治医名・電話番号もきちんとメモしておきましょう。





まとめ 【シックデイルールの10原則】

  1. 血糖値と尿ケトン体を少なくとも4時間毎に自分で測定しましょう。夜中は目覚まし時計をセットします。(ケトン体と高血糖はインスリン注射の追加をすぐに行う必要を示します。)

  2. いつも通りのインスリン注射を行います。もし、食べることができなくてもインスリン注射を中止してはいけません!しかし、食べられない場合は入院治療の検討も必要です。

  3. 病気になる前に、病気の際のインスリン注射法について主治医と話し合っておくことをお勧めします。以下に示すインスリン追加法は1つの例ですが、主治医と相談の上決めた個人向けインスリン追加法の方がベターです。

  4. 血糖値が240〜400mg/dlで尿ケトン体が陰性の場合、速効型インスリンを1日総量の10%追加します。通常のインスリン1日総量の計算をあらかじめしておきましょう。血糖値が100〜150mg/dlにするために必要なだけ速効型インスリンを追加することになります。

  5. 血糖値が400mg/dl以上の場合は尿ケトン体の有無にかかわらず、血糖値が240〜400mg/dlで尿ケトン体が陽性の場合、速効型インスリンを1日総量の20%追加します。

  6. 通常のインスリン注射の時間と重なった場合には、通常のインスリンに加えて速効型インスリンを上記の量だけ追加することになります。

  7. 血糖値が240mg/dl以下の場合、たとえ尿ケトン体が陽性でも追加インスリンは使用しません。通常のインスリン注射のみです。

  8. 1時間ごとに水分を飲みます。勧められる食物はリンゴ・ジュース、グレープジュース100mlなどです。吐き気や嘔吐のため水分摂取ができない場合には主治医に相談して下さい。

  9. 安静にして暖かくして下さい。運動をしてはいけません。世話をしてくれる人を確保して下さい。

  10. 嘔吐・痛みがある場合、血糖値のコントロールができない場合、直ちに主治医に相談して下さい。



 
(以上、岡田先生の配布された資料より)



このとき、尿のケトン体を自分で測定できるようにしておいて下さい。視力が低い人の場合、音声式の血糖測定装置があるので、そちらを利用されるとよいでしょう。

血糖値が高くなると、多量の電解質と水が身体から出ていきます。30分から1時間毎に100ml(二口)ほど塩分の入っている水分を補給することが大切です。また、急激な体重の減少がないかどうかをチェックするため、体重は1日に数回測るようにして下さい。

ちなみにケトン体とは、脂肪が燃焼した結果生成される物質のことで、このケトン体が大量に生成されることによって身体が酸性に傾くと、ケトアシドーシスになる訳です。

また、食事が摂れなくてもインシュリン注射を中止してはいけません。血糖値が240以上の場合はケトン体を測っておいて下さい。なお、追加するのは速攻型インシュリンのみで、混合型は使ってはいけません(長時間効き過ぎるので)。

シックディ・ルールにおいて重要なことですが、自分だけで頑張り過ぎてもよくありません。問題を自分独りで抱え込もうとしないで、必要であれば迷わず他人の手を借りるようにして下さい。また、自分で対処できるだけの自信がない人も病院を受診するべきでしょう。その際必要になるかかりつけの病院の連絡先などは、前もって確実にメモしておいて下さい。





*参加者から岡田先生に質問*

Q:

1時間毎に栄養を補給する訳ですが、1回あたりのカロリーの量はどの程度を目安にすればよいのでしょう?

A:

単純糖質で1単位程度と考えて下さい。人間の1日の基礎代謝は800〜900calなので、それを24で割って計算して下さい。



*岡田先生から参加者に質問*


岡 田:

皆さん、自宅にケトン体の測定検査紙はありますか?(→ここで、殆どの人が持っていないことが判明...)

岡 田:

え?持ってないんですか!?...(半分呆れている)。...皆さん、今日は製薬会社の方にお願いして特別に検査紙を分けてもらいましたので、それを持って帰って下さい。

参加者:

私はケトアシドーシスのときには口臭が変わりますので、それで判断しています。

岡 田:

なるほど。




ひとこと


岡田先生から「ケトン体の測定検査紙は持っていますか?」と訊かれたとき、持っていると答えたのは僅かに2人程だったと記憶しています。これは自分の身体のことなのですから、呆れられても当然でしょう。自己管理のないところに自立はない。そう思いました。



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