発掘!革新企業−(株)アクト

歴史教育ソフトで新境地

 ベンチャー企業らしい体当たりの説得で各方面から協力を獲得畑違いながら、精彩に満ちた魅力ある歴史教育ソフトを開発。

 「こんなもん学問かいな。」95年6月、小中学生むけ歴史学習ソフト「タイムトラベル」の試作版の実演を見て、ある大寺院の執事長は最初の感想を漏らした。CD−ROMに収録されたソフトはTVゲームのように遊び心に満ちているのだ。
 だか秋田公司・アクト社長が操作を進め、場面が合戦や一揆など迫力満点の動画へ至ると、執事長も「歴史の流れを目で見て体験できるんやな」と感嘆。最後は「もっと撮影協力してウチの寺の登場場面を増やしてもらうんやった」と後悔することしきりなった。
 「タイムトラベル」は大人にも十分に楽しめる。映像が子供だましでないためだ。京都の寺社仏閣はじめ名所旧跡の実写はもとより、平素は非公開の部屋や所蔵の映像まで収録されている。重要文化財や国宝の映像は無数だ。
 また華道の池坊では最古の花伝書に基づき再現した生け花、茶道の裏千家では秘蔵の天目茶碗、能の金剛流に至って家元が自ら舞う姿が収録されている。
 押し寄せる騎馬武者へ轟音とともに火を噴く鉄砲といった合戦風景をはじめ、迫力ある動画はNHKや東映から提供されたものだ。
 「タイムトラベル」の正式名は「タイムトラベル in KYOTO with GPS version 室町」。パソコン画面に表示された現在の京都の地図上を移動(この機能がGPS)して興味のある名所旧跡を訪れ、そこで室町時代へ時間旅行(タイムトラベル)する設定だ。そこからは、興味に応じ、用意された230の参照項目をTVゲームさながらの簡単な操作で検索していくわけだ。

「教育のため」が威力発揮

 操作の簡単さや収録された映像の素晴らしさで「タイムトラベル」は驚嘆すべき出来だが、より驚くべきことは、このソフトが教育と無縁なベンチャー企業により製作された点だ。
 制作者であるアクトは、秋田製作所はじめファクトリー・オートメーション関連五社で結成されたアクトグループを統括するため88年に発足した会社だ。
 そのアクトを教育と結びつけたのは、秋田社長が小学校のPTA会長を務めているという一点のみなのだ。文部省による学習用ソフトウェア開発委託先の募集を、役員がパソコン雑誌で見つけたことが転機となった。
 アクトは「知り合いに教育関係者や大学教授もいるから」(秋田社長)と応募を決断。フタを開ければ94年9月、9.8倍もの競争を突破し、大手教育出版社やNEC、富士通、日本アイ・ビー・エム、アップル・コンピュータといった巨人と伍して委託先10グループの一つに選ばれた。
 だが「素人だから、やろうなどと決断してしまった」(秋田社長)アクトは、着手早々に著作権問題という壁に突き当たる。なにしろ寺社仏閣の写真一枚の入手にも何万円もの費用がかかる。正攻法では、とても2000万円の開発委託費で賄えない。
 一時は「委託された企画は返上しようかと思った」秋田社長は、だが、あきらめなかった。自ら名所旧跡はおろか伝統芸能の継承者、テレビ局や映画会社との折衛に乗りだした。カネはない。だが「子供たちの教育のため」と説得に回ったのだ。
 みな、その熱意に動かされた。「ええモノ作りや」と無償で協力に動いたのだ。映像提供でなく、登場者も手弁当で撮影の応じた。総勢11人のアクト社員の外部協力者として、教育者やカメラマン、演出家、弁護士といった、その道のプロまでがボランティアで参画した。
 かくして95年3月には文部省へ委託開発の報告書とCD−ROMを提出できた。続いて商品化に着手、1セット18、000円で12月6日に発売を開始した。
 京都府中小企業総合センター所長として「タイムトラベル」と出会った今井賢一・スタンフォード日本センター理事長は、ソフト解説書に自ら序文を寄せるほど惚れ込んだ。
 その序文には「マルチメディアという時代の最先端技術を巧みに使った画期的な歴史教科書」とある。
 「著作権料が8億円かかることが判明し、百科辞典のCD−ROM化を断念した大手出版社がある。このCD−ROMも、もし大企業なら著作権料の積算結果をみてすぐ断念しただろう。『お願いします』と頼み込めるのがベンチャ−企業の強み」と今井教授は語る。
 実に、ベンチャー企業だからこそこのようなソフトを世に送り出せたのである。

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