伝統工芸〜モダニズムの極致
 

■ 藤原定家(ふじわらのていか)と後撰和歌集(ごせんわかしゅう)

古今を通して最高の歌人であり、偉大な能書家でもあった藤原定家。その書風は定家流とも呼ばれ、明快で力強く、現代的ともいえる造形感覚が随所に見える。江戸時代には、風流人の間でこの定家流が重用されたという。「後撰和歌集」は定家最晩年の73歳のときの作品。つぶれた文字、よれたような筆致、とても流麗とはいえないが、これは彼が患っていた中風の影響によるものと考えられている。定家流はあまりに有名だったので、定家の文字を模写した贋作が多く出回っていたが、さすがにこうした微妙な震えを真似する者はいなかったらしい。希代の能筆家の定家にとっては皮肉な作品だといえるかもしれない。